フランスの医療と介護の最新情報その2;ブローニュ・ビアンクール市のアボンダンス高齢者医療センターに見る医療と福祉の複合体と地域包括ケア

2016年01月26日 13:52

アボンダンス高齢者医療センターのアルツハイマー病棟のリビングSIAAD申し継ぎマリーアンヌさんと 正面アボンダンス旧館パリ市内からブローニュの森を越えて1時間余。イル・ド・フランス地域圏第二の街、ブローニュ・ビアンクール市の市立アボンダンス高齢者医療センターを視察した。この市は1920年代からルノー社によって繁栄してきた街で、富裕層も多く、60歳以上が20%.市庁舎を始めル・コルビジュなどの近代建築の傑作もあるというが、残念ながらそれはまたの機会に見ることにして、今回は高齢者ケア視察に。

【アボンダンス高齢者医療センター・病床を住まいに転換、在宅ケアも】

この病院の歴史は古く、1897年に建てられた宗教団体による貧困者の救護施療院からはじまり、時代のながれとともに改築と近代化をし、現在は急性期ベッド以外のあらゆるフェーズの高齢者医療と介護、病床を住まいに転換した高齢者施設、在宅サービスを併せ持つ複合体で、「MAIA92」の地域包括ケアを進めている。またこの地域にある大学病院、地域病院、民間病院が互いの専門科の機能をシェアしながら、ネットワークしている。

視察の対応をしてくれたのは、長身のダイレクター(センター長・院長だが医師ではない)マリーアンヌ・フォーリアさん。彼女はルノー社勤務の夫君が、あのカルロス・ゴーン氏が日産の社長として就任の際、財務担当として東京勤務をしたので、彼女も3年間日本に居住して子育てをした経験を持っている日本びいき。3人の子育てをしながら、今やダイレクターとしてリーダーシップをとり、予算獲得や行政政策にもかかわる、女性活躍の国フランスのキャリアウーマンの典型のような方で、すっかりそのポリシーに意気投合した次第。

さて、アボンダンス医療センターでは、[医療部門]は、亜急性期病床30床、長期療養病床110床、アルツハイマー病床40床、24時間病床10床、メモリー外来、デイホスピタルなど。

[社会医療(福祉介護)部門]では、高齢者住宅、医療福祉施設Lesetablisse ments medico-sociaux(医療の整った福祉施設)の通常型とアルツハイマー型で120床、認知症デイケア(50人),レスパイト10床.

そして[在宅部門]ではCLIC(地域包括支援センター),SSIAD(在宅訪問看護介護事業所),SAAD(家事援助・買い物支援等)などがある。

他に[地域住民向けサービス]として、精神心理やオリエンテーションなどの老年医学的評価や認知症のメモリー相談などを実施、また食事のデリバリー等のサービス紹介や情報提供など多岐にわたる地域住民や家族支援の医療介護連携のサービスを提供していた。

特に[家族支援]はいまフランスが力を入れている分野で、心理士が約100人を受け持っていたが、家族の介護倒れや虐待などDV予防の介入に効果的だという。

【SSIAD在宅訪問看護介護事業所での看護介護協働を見る】

病院の敷地にあるSSIADは行政上のキャパとして190人の利用者に在宅ケアサービスを提供している。スタッフは訪問看護師10名と身体介護をする看護助手30名がチームで在宅を担う。毎年80人程度の新規利用者がいるが、ケアの終了は主に死亡で、在宅での看取りも行う。勤務は朝8時から20時で在宅ケアを行うが、8時から16時が主に訪問看護チーム、12時から20時が主に看護助手の身体介護チームの2チーム制。事務室内を拝見すると、壁には利用者のカードが地区別や重症度別に色分けされてカード入れにあり、脇のデスクでは忙しい雰囲気の中で、訪問看護師たちが訪問記録を手書きしている。どこの国へ行っても訪問看護や介護チームの持つ雰囲気はおなじだ。2つのチームの申し送りが午後3時に行われるので同席したが、看護師がフランス人で看護助手が移民の人たちという構図は、この国の社会構造を反映しているようでもあった。

【スマートなイノベーションと家族の笑顔】

さて、このアボンダンスの医療と介護の融合、特に「病床から住まいへの転換」とイノベーションは、いまわが国で議論中の療養型病床の転換にも大いに参考になった。

またアルツハイマー等の認知症ケアにおいてもそこかしこに工夫とチャレンジがみられ、学びがあったが、全室個室は言うまでもないが、危険防止や個人の尊厳の配慮には感心させられた。いこごちよさそうな個室をみると、ベッド脇の椅子は重く、持ち上げられないようになっている。またナースコールなどは紐がない。イギリスの施設で、クローゼットに取っ手がなかったのを思い出す。

昼間過ごすリビングルームは、普通の家庭のしつらえで、色彩豊か。テラスに直接出られるようになっていてそこにはみんなで植えたという野菜や果物が楽しめる。

アボンダンスでは、高齢者の病状の進行パターンに応じたシームレスな支援を重視しており、医療と介護の融合による資源の有効利用と人材の専門性を活かした、効率性とQOLの相乗効果が期待されている。

デイルームでくつろぐ高齢男性とその家族に出あった。リクライニング車いすの彼は重度な障がいがあるが、毎日面会に来る妻や家族が、彼の好物を介助で食べさせているところだった。スマートなイノベーションは愛をもたらす=ふとフランスのエスプリを感じたことであった。

 

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