フランスの医療と介護の最新情報その3=[在宅入院 HAD」の在宅高度医療・訪問看護

2016年01月27日 10:16

HAD全国在宅入院連盟の事務局長、最大大手サンテ社の代表,視察メンバーの佐々木淳ドクターと。HADを紹介するパンフレットフランスの在宅医療で何と言っても興味深いのは「HAD 在宅入院 Hospitalisation a Domicile」である。私は2005年に初めてこのHADを訪問して以来、何回か視察をし、レポートしてきたが、訪れるたびに進化している。フランスも急性期の病院の平均入院日数が5-6日と短いので、1日も早く自宅に退院させた後は、この「在宅入院」チームが在宅での高度医療を入院時と同様、訪問看護で提供している。

「HAD 在宅入院」は戦後の1950年、60年代の結核時代のベッド不足から始まった歴史を持つが、高齢化の進展と国の医療費抑制策による入院日数短縮化や利用者のQOLと利便性と言う双方のメリットが相まって推進されてきた。先進国では病院に1日でも長く入院することは特に高齢者にとっては寝たきりや認知症のリスクを伴い、「良いことではない」と言うのは”常識”になっている。

HADは早期退院後の「30日程度の短期集中」「在宅高度医療・訪問看護」であり、「入院と同レベルの治療が自宅で受けられる」仕組みである。

担い手は医師・看護師・助産師・看護助手・PT・OT・心理士・ソーシャルワーカーなど。今回は全国HAD連盟のエリック・ジネシー事務局長さんと連盟副会長も務めるHAD最大大手の・サンテ社のミカエル・カルマン代表から説明を受け、意見交換をした。

HADは政府・保健省の医療政策の中でも「外来手術」「日帰り入院」と並んで重点施策であり、2018年までの「5か年倍増計画」が進行中でもある。

HADの対象患者は「期間限定」で「頻回な訪問と多職種介入が必要」な患者と定義されていて、がんの在宅化学療法が三分の一を占めるが、複雑な創傷処置、産後ケア(出産後24時間で隊員が普通),抜糸をしていない術後の患者の処置、日帰り手術、小児、ターミナルケア、人工栄養(経管栄養や腸ろう),神経難病等で、8割は退院患者だが、「急性期なら何でも受け入れる」。

平均入院(訪問)日数は約30日。HADからの”退院”後のケアの必要な患者(慢性期・慢性状態)は,日本の訪問看護ステーションに類する「SSIAD 在宅訪問看護介護事業所」や「開業看護師」につなぎ、ケアを継続する。

2014年の実績は全国308か所のHADで、患者数は10万6千人(全入院患者700万人の1,5%)、うち死亡は1万5千人となっている。費用は1日あたり平均200ユーロ(500から50ユーロ)が包括払いとなるが、これは病院入院費用に比べれば5分の一のコストで済む。

現在、全仏に311か所のHADがあるが、131が民間非営利、128が公立病院協会、52が民間営利で、患者規模別では民間営利で1400人規模、公立病院協会で800人、50人規模の民間など、大小様々である。

中でも最大大手のサンテ社は1957年の創立で、フランスのみならずヨーロッパでベスト1の実績を持つが、近々ロシアにもHADを”輸出”、展開するという。パリとイル・ド・フランス圏をカバーするサンテ社のHAD利用者は1400人。看護師等スタッフは900人を雇用、300以上のネットワークを持ち、年間売上は1億ユーロだという。HADとSSIADも持つので、急性期から慢性期まで事業展開し、またコンサルテイングや研修プログラムの開発で人材養成もしている。まさにこの業界のリーデイング・カンパニー。次回は現場視察をお約束した次第。

さて、HADは看護師の活躍の場でもあるが、「看護師にはどんな資格が必要か?」と問うと、「特に資格は求めていないが、①自立していて、②柔軟な対応ができ、③責任感が強いこと」が求める資質だという。特定の臨床現場の経験の有無も問わないが、実際には救急や外科系などの経験がキャリア的には強みになる。その一方で、「新卒を採用してHADで教育する」ことも重視している。ここが日本の訪問看護界との大きな違いでもある。

副会長のミカエル代表にこれからの展望を聞くと、「在宅で入院と同じレベルの高度医療が受けられ、患者にとっても時間短縮や費用など、利便性が高い。またHADは入院の5分の一の費用で済むので医療費削減につながりQOLの効果も高い。政府の5か年倍増計画を推し進めたい」と力強く語ったが、そのための課題は「HADに対する病院医師やかかりつけ医、開業看護師、市民の理解を深めることだ」と“紹介パンフレット”を手に啓発を語ったのがちょっと意外だった。

今後、わが国においても本気で在宅医療を推進するならば、患者目線に立ったHADのような退院後の「在宅高度医療・訪問看護」が必要になる。今の訪問看護ステーションのスキルアップと急性期病院との連携強化でシームレスな展開ができる診療報酬も必要になる。特に公的病院には病院からの訪問看護を義務付けて、高度医療処置のある患者の退院後の15日から30日くらいを受け持ち、その後訪問看護ステーションと連携する方法も考えられる。

受け皿を整備してこそ、入院日数の短縮化やがんの緩和ケア、在宅化学療法、そして高齢者も含めた在宅の看取りが進む。訪問看護制度の再設計も必要になろう。

 

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