フランスの医療と介護の最新情報その4=フランスの開業看護師、医師の”処方箋”を軸に在宅での多職種分業

2016年01月27日 11:30

講義開業ナースパリの開業看護師クリストフさんとフランスの訪問看護における豊富なマンパワーと重層的な仕組みはわが国の訪問看護制度にも大きな示唆を与えてくれる。「HAD 在宅入院」や「SSIAD 在宅訪問看護介護事業所」、そして「開業看護師」がそれぞれの機能で連携しているしくみである。

ところでフランスとわが国の医療界の大きな違いの一つは、医師だけでなく国家ライセンスを持つ看護師、助産師、PT,OT,心理士などが「開業権」を持ち、多くは共同でオフイスを借り、開業していることだろう。

医師の「処方箋Prescription Medicale」を軸にした開業看護師、開業リハビリ職、薬剤師(薬局),検査専門機関の分業・協業はこの国の「自由・平等と連帯」ポリシーを垣間見るようでもある。

2014年現在、フランスの就業看護師60万170人のうち9万8249人(16,4%)が開業看護師であり、そのうち男性看護師が1万5987人を占める。また理学療法士では開業PTが8割を占めている。ちなみにわが国の訪問看護師は約4万人、全就業看護師の2%程度に過ぎない!この差は大きい。

開業看護師は臨床経験が3年あれば地方公衆衛生局に登録し開業できるが、近年は都市部や南部ではすでに過剰で新規開業ができず、地方なら空いている。市町村行政がビルを提供してコメデイカルのグループ開業を招聘し、地方の人材不足を補う”公設民営型”もあるという。

開業看護師の業務の流れは、患者にかかりつけ医から「処方箋」が渡されると、患者は開業看護師を選び、そのクリニック外来で治療や処置を受けるか、自宅に訪問看護をしてもらう。

さて、今回はパリ17区で開業11年目のベテラン開業看護師クリストフ・ラセールさん(44歳)に話を聞いた。3人の看護師で共同出資して(各人が月1000ユーロの事務所経費も負担)、グループ開業をしているが、政府の支援策では補助金3000ユーロ(年)や25%の減税などもある。

自転車やスクーターで対応可能なエリア内で、1日平均60人(55人から70人、90人の時も!)の患者ケアと言うダイナミックな仕事ぶりで、年間2万人を超す患者をかかえる彼の日常は朝7時半から夜10時半までが業務時間。まず朝7時半から午前中の訪問看護、13時から14時はクリニックの外来で患者の処置や提携するラボから依頼の検査等。14時過ぎから午後の訪問看護、17時からはまたクリニックで患者対応。19時から夜の訪問看護で2時半頃終了となる。

この業務をこなす助っ人がITで、医師の処方,処置、プランニングと記録もソフトの利用で、効率的に訪問業務をこなすことができる。

「ハードワークですね!」と驚くと、「3人でチームを組んで月に15日くらいはハードに働き、後は自分の人生も謳歌する。オン・オフの切り替えで看護も人生も楽しまなくては」と、収入も勤務時間も自分で決めるフランス流人生論が返ってきた。

現在はゼロ歳児から107歳の高齢者までの患者がいるが、看護内容もドレーン交換、IVH,がんの化学療法、尿カテーテルの挿入と交換、静脈注射・筋肉注射・手術後の抜糸や処置、下腿潰瘍、褥瘡、投薬管理と多彩、多岐にわたる。在宅での緩和ケアやターミナルケアも担うが、がん末期などで難しいケースはHADや病院からのモバイルチーム(専門チーム)と連携する。

さて、開業看護師には「看護報酬」が日本の診療報酬のように疾病金庫から支払われるが、看護報酬は「医療看護技術AMI」と「看護生活技術AIS」で点数化されている。2012年改定のAMIでは皮下注射をすると1回8,50ユーロ(処置料・移動・加算等が含まれる)。ガーゼ交換処置15~20ユーロ、点滴30,85ユーロなどとなっており、訪問回数と難度の高い処置が増えれば収入も増える出来高方式。

またフランスでは医療分野のIT化も進んでおり、全国民が持つ「Vital Cardヴァイタルカード」のICチップには社会保障番号と診療記録が書き込まれており、患者は受診時それを提示する。写真のようにカードリーダーに患者のヴァイタルカードと専門職のプロフェッショナルカードの両方を入れると、データ書き込みと診療報酬(看護報酬)の電子請求、患者の医療費償還までが瞬時にできる仕組みだ。ちなみに2015年からは保険者機能も強化され、ソフトの利用で、処置等の診療行為のトレーサビリテイが可能になっている。

さらに開業看護師の業務の自立度を推し進めているのが「看護師の処方権」である。政府の2007年4月15日法令で「看護師の処方権」が可能になった。看護師が衛生材料や導尿カテーテル、皮膚科の湿布薬、下剤、浣腸剤、ピル等の処方ができ、看護の自立度の広がりは患者の利便性に大きく寄与している。日本の訪問看護師たちが、在宅の利用者への看護でこれらの衛衛生材料や簡素な薬の入手に困難を抱えており、これまでもいくつかのモデル事業等も展開したが、いまだステーションでストックして販売したり、訪問看護師が「処方」できるまでは至っていない。

さて、「開業権」や「処方権」を持ち、在宅でプライマリケアからターミナルケアまで幅広く活躍するフランスの看護師達だが、看護のやりがいにつながっているのは、高い報酬と自律的な人間関係であろうか。これを得るにはわが国の看護基礎教育の大転換が必要で、訪問看護への人材確保も路線変更が必要ではないか、とわが国を振り返った次第でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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