フランスの医療と介護最新情報その5=高齢者住宅は「拠点型」に。”街のたたずまい”で個人の自立と公共性の融合

2016年01月28日 11:14

高齢化の進展を受けて、可能な限り在宅生活の継続を推進するフランスでも、いくつかのタイプの高齢者の住まいの充実が進んでいる。2011年より新しい地域包括ケアシステム「MAIA」による医療と介護福祉の融合が進捗中で、ブローニュ・ビアンクール市のアボンダンス高齢者医療センターでは、病院の「ベッドを住まい」に転換して、病院敷地に在宅ケア部門も併設し、慢性期病棟、外来医療、デイケア、高齢者住宅など、高齢者ニーズの多様なフェーズに対応可能なように運営されていた。

高齢者住宅も「単独型」から「拠点型」に、医療も「外付け」にするか「施設内で機能強化」するかと、議論とトライアルが進んでいる。その実践例をパリ市内サンモール地区、中世の雰囲気の残る修道院跡に隣接する高齢者住宅「ABCD」で視察した。

【個人のプライベートな住宅と公共の場の共役】

公立(コミューン立)セクターが運営する「ABCD」のネーミングは、3地区で運営する高齢者住宅の名前Abbaye ,Bords de Marne,Cite Verteと提供している在宅サービスDomicile Servicesの頭文字をとっているという。ここの特徴は「個人のプライベートな住宅と公共の場の共役」をミッションにしていることだ。

建物を入ると1階には劇場ホールがあり、託児所があり子どもの姿がある。中2階はショッピングアーケードで、美容院やショップ、貸事務室。フリースペースやリハ室では近所の住民がヨガ、太極拳、ジム、癒し教室などを楽しむ。また認知症ケアの「スヌーズレン・ルーム」もあり、ここには入居者だけでなく在宅チームや開業看護師が自分の利用者を連れてきてセラピーをする。

レストランも開放しており、市内のレストランと遜色のない華やかさで、メニューもチョイスできる。テーブルにはワイングラス、エスプレッソマシンなどエスプリの効いた空間がしつらえてある。またクリーニング屋も入っていて、入居者が利用できる。まるで街の中で暮らしているような雰囲気が全体に漂っている。

これらショップの賃貸料や利用料は施設の収入となり、人の出入りはガラス張りでオープンな関係を地域を結ぶことになる。

【長く在宅にとどまれるケアと自立型住宅】

二つ目の特徴は「 高齢者が長く在宅(住宅)にとどまれる支援」をしていることだ。ABCDは「自立型の高齢者住宅」で、中等度の介護度の199人が入居、平均年齢は87歳と言う。「高齢者の自立」をポリシーに、①自由な意思に基づく選択、②在宅生活を長く続けられる支援、③自立支援、に重点をおいている。また「医療は外付け」だが、施設内には調剤薬局があり、かかりつけ医の処方箋はここで投薬を受けられ、かかりつけ医や開業看護師が訪問してくる。

建物の構造や設備、インテリア、ケアにもそのポリシーの反映がそこここに見られた。玄関には個人の郵便受け、廊下には人が通ると香るアロマデフューザー、 ネコや犬もゆったりと歩いている。

居室は23㎡でトイレ・シャワー付き、自分の家具を持ち込んで個性的にしつらえるのはヨーロッパのどの国も同様。ペットとの”同居”もできる。月の賃貸料は約2500ユーロ(約34万円)で、高齢者の平均的な年金収入が月1200ユーロと聞くとけっして安くはないが、半数は自費で支払うという。50%は福祉等の補助を受けている(施設によっては60ー70%の割合も)。

施設の運営費収入は60%が入居費、30%が疾病金庫からの給付、10%が県からの補助金となっている。

ABCDの3施設全体でみると、入居者400人に対しスタッフはフルタイムで280人、うちケアスタッフは180人。ケアワーカーは2対1、看護師は60対1の配置基準。夜間は看護師1名、ケアワーカー1名で担当する。

「待機者が300人いるが、1年待ちです」と、人気とクオリテイの高さを誇る広報担当者だ。

【託児所にくる子どもたちの成長に相乗効果】

興味深かったのは1階に併設の託児所の”相乗効果”。18か月から36か月までの子どもたちが通うが、高齢者との日常的な交流の中で、高齢者への刺激や効果は期待通りだったが、予期せぬ変化は子どもたちに表れた。

「高齢者のゆっくりしたペースから子どもたちは寛容さや忍耐力を身につける。またリハビリをする高齢者や廊下を歩く姿、並んで食事をとったりなど、障がいにどう対応するかや優しさをまなぶなど、成長にも変化がみられる。」と。

また、フランスの若い夫婦は共働きが多く、忙しい親たちにせかされて毎日を送っている子どもたちにとっても高齢者とのかかわりは、「子どもたち自身の癒し」になっているという。

【揺蕩えども沈まず】

パリ市の紋章は、帆船が青い波に浮かぶ文様に「揺蕩えども沈まず」とラテン語で書かれている。したたかさと不屈の精神、多様性と柔軟性などを表現していると言われる。今回の多発テロ事件においても、恐怖の中でもいつもの暮らしを粛々とすることがレジスタンスだとする市民の屈しない姿勢にもそれを感じたが、高齢者の尊厳という難題に向き合うながら、医療看護介護にチャレンジする姿にも、どうようにフランスらしさを感じることができた。その意味でこれからもフランスの医療介護改革をウオッチしていきたいと思う。

その一方でわが国の介護保険の優位性をあらためて実感する視察にもなったことを付記しておきたい。

今回の視察ではいつものように、パリ在住の奥田七峰子さんに施設先のアレンジから通訳まで大変お世話になった。あらためて感謝を申し上げたい。また視察を企画した高齢者住宅新聞社とご参加者の皆様にも御礼申し上げる。

ABCd外観レストラン

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